小説家と執筆スタイル(『作家超サバイバル術』より)
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では『作家超サバイバル術』の本編をどうぞ
『作家と執筆スタイル』
新人作家や作家志望者にとって、ある程度以上売れている作家の執筆スタイルというものは知りたいし、参考にしたいものらしい。ただ、最初に一つだけ言っておく。
参考にするな!
参考にすればするほど、作家として生き残る確率は下がるぞ!
と、いうのが私の考えである。もはや、この企画を全否定するような発言だが、それはひとえに、他人の真似をした作家は消えていくというのが私の分析だからだ。
さて、執筆スタイルというものを、私は大きく『文体』と『執筆スケジュールの管理』の二つに分けて考えている。ただ『執筆スケジュール』については、超速筆の七里さんと、じっくり書くタイプの葉真中さんが語ってくれると予想しているので、今回私は『文体』について語りたいと思っている(ちなみに私は結構速筆な方だ)。
作家として生き残りたいなら、自分だけの文体というものを身につける必要がある。
油絵のように、場面の状況や登場人物の心情を美しい比喩を使って描く厚みのある文体、逆に水墨画のように無駄を省いてシャープに読ませる文体、どちらも間違いではない。
一般的に、純文学では油絵のような文体、ミステリーやサスペンスでは水墨画のような文体を使う作家が多い傾向にあるが、別にその方がよいと一概に言えるようなものでは決してない。
小説を書きはじめて最初のころは、どの程度詳しく状況を描いていいのか分からず、苦労することが多いと思う。私もそうだった。
そんな悩みを抱えた初心者たちはどうすればいいのか?
ネットなどには、好きな作家の作品を模写してみるといいとか、小説教室に通って習えばいいなどと書いてある。しかし、私はこう思う。
やめとけ!
なぜなら、作家として生き残るには、オンリーワンにならないといけないからだ。
他の作家もよく書いているような、どこにでもある作品を執筆しても意味がない。
自分にしか書けない作品、自分だけが書くことができる作品、そのような作品を持つ稀有な作家だけが、毎年百人以上がデビューする文壇の中で熾烈な生存競争に勝ち抜き、ベストセラーを生み出していくのだから。
そんな状況の文壇で、誰かの真似をしたり、誰かに教えてもらったりすることになんの意味があるだろう。誰かの文体を真似た時点で、あなたはその作者の劣化版にしかならない。本家を越えることは決してできないのだ。
私はデビューしてからしばらくの間、意図的に読むのを避けていた作家が一人いる。伊坂幸太郎さんだ。
勘違いして欲しくないのだが、伊坂さんの作品が嫌いなのではない。その逆で、大好きだ。『重力ピエロ』とか『ゴールデンスランバー』とか、本当に最高なんで、未読の方はぜひ読んで!
閑話休題、ではなぜ伊坂さんの作品を読まないようにしたかというと……
あまりにも文体が魅力的過ぎるからだ。
伊坂幸太郎、村上春樹、西尾維新、森見登美彦などの作家は、小説の内容だけでなく、その美しく独特な文体だけで読者を楽しませることができる。
まだ自らの文体が確立していない作家がそれらの作品を読むと、引っ張られて無意識に彼らの真似をしようとしてしまう。しかし、それほどに魅力的な文体を紡げるのは、一部の天才だけだ。いくら真似をしようとしたところで、二番煎じのまがい物になってしまうのがおちだ。
そうなるのが恐ろしく、私はデビューして数年間、自らの文体が固まらないうちは、特徴的な文体の小説をできるだけ読まないように注意してきた。
これで、どうして好きな作品の模写を勧めないかについては、理解してもらえたと思う。さて、では小説講座はどうか。残念ながら個人的には、模写以上に小説講座の受講は勧めない(あくまで個人の見解なので参考程度にお考えください)。
小説講座の講師は(有栖川有栖さんなどの)ごく少数の例外を除き、あまり本が売れなくなった作家であることが多い。皆さんの究極の目的は、新人賞を受賞することでなく、ベストセラー作家になることのはずである。
残酷なことを言うが、現状でそれほど売れていない作家が、ベストセラー作家になる方法を知っているわけがない。知っていたら、自分が実践しているはずなのだから。
もちろん小説講座には、小説の基本技法を学べる、執筆仲間ができる、自分の作品を批評してもらえるなど、執筆初心者が欲するものが揃っていることは否定しない。
しかし私は、それらもベストセラー作家を目指すなら、意味がないどころか害になるものだと思っている。
なぜなら、他人から教わった小説技法などより、歯を食いしばって孤独に執筆する中で自らが編み出したスタイルの方が遥かに役に立つからだ。
執筆とは本来、孤独な作業だ。一人で黙々と物語を紡ぎ、いかにすればさらに魅力的なストーリーになるか、延々と試行錯誤をくり返していく。長期間そうしているうちに、やがて自らの中に物語る者としての芯が形成されていくのだ。それこそが、真の作家の姿であると私は考えている。
そのためには、他人ではなく自らの目で、執筆した作品を批評する能力を培う必要があるし、孤独に耐える訓練も必要だ。小説講座はそのように作家としての実力を鍛えるための負荷を取り去ってしまうのだ。
さて、ではどうすれば自らの文体、自らの執筆のスタイルを確立できるか。それは一にも二にも、小説を書くことである。
かつて、『作家は書いた原稿用紙が身長を越えてはじめて一人前』と言われていたと聞く。計算してみたところ、原稿用紙一万枚程度で私の身長である一七〇センチを超えるらしい。
たしかに私の実感としても、作家デビュー三年目で執筆量が原稿用紙で一万枚分を越えた辺りから、文体に迷いがなくなった。
では、文体に迷いがなくなるとは、どういう状態を指すのか。自分の強みを最大限に生かせる文章を身につけた状態だと、私は考えている。
以前にも書いたが、作家は志望者も合わせると二十万人ほどいると言われている。その中で、一握りのベストセラー作家と呼ばれる人々は、まさに天才の集団だ。そこに割り込んでいくためには、『誰にも負けない自らの強み』を見つける必要がある。
デビューから思考錯誤を繰り返した結果、私は自分の『強み』を、『伏線を張り巡らせ、複雑な構成を作り上げる能力』、『スピード感があるストーリー展開』、『現役医師としての医学知識』、の三点だと思っている。
その点にかんしては他の作家に負けない自信がある。そして、その強みを生かすためには、できる限りシャープな文章が望ましいというのが、私がたどり着いた答えだった。
なので、私は推敲の際、文章を削る。削って削って、削れるところは片っ端から削り続ける。推敲を終えると、二割ほど文字数が減っているなどということもざらにある。
シャープな文章は物語にスピード感を与える。複雑な伏線が織りなす謎が次々に読者に襲い掛かり、物語に没頭させる力になる。私の武器をさらに光らせることができるのだ。
いかにしたら物語が魅力的になるのか、妥協することなく研究を続けることではじめて身につく、自分だけの文体。それは、誰かから教わったまがい物の文章とは一線を画するものだ。
きっと、あなたが作家として成功するための大きな武器になるだろう。
以上は、あくまで私の個人的な見解であり、参考にするもしないもあなたの自由だ。こんな前時代的な努力を強いるよりも、もっと効率のよい方法で執筆スタイルを身につけたいと思う方も当然いるだろう。
ただ、私はその非効率的とも思える方法で作家としての実力をつけ、こうして紙面で偉そうに語れるほどになった。これが唯一の方法だとは決して思わないが、私が実践したノウハウを開示することで、皆さんが自分の執筆スタイルについて考えるきっかけになれば幸いだ。
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